うつ病(適応障害)による8年間の引きこもり40代 男性 福津市
来院までの経緯
約10年前、うつ病を発症しながらも看護師として勤務を続けていましたが、その後「適応障害」と診断され、やむを得ず退職されました。
その後は実家に戻り、異なる職種での再就職を試みましたが、不安感や人間関係の問題から退職を繰り返し、最終的には約8年間、仕事に就けない状態が続いていました。
日々、過去の出来事を振り返っては失敗や後悔に苛まれ、「あの時こうしていれば…」と自分を責めることが多く、将来への強い不安も抱えていました。
親への申し訳なさから「何とかして仕事を再開しなければ」という思いが募る一方、働けない自分をさらに責める悪循環に陥っていました。
心療内科やカウンセリングにも通いましたが、十分な変化を実感できず、次第に一日中ふさぎ込むようになり、食事もままならず、睡眠も取れない日が続いていました。
そうした中で、当院にご相談いただくこととなりました。
初回来院時のお悩み
・社会復帰して親への感謝を形にしたい思いは強い一方、その一歩を踏み出す不安が大きく、行動に移せない状況でした。
・寝つきの悪さや夜中の中途覚醒が頻繁に起こり、心身の休養が十分に取れない状態が続いていました。
・気持ちが落ち込むと立て直せず、数週間にわたり部屋から出られないこともあり、日常生活の維持が困難になっていました。
・「ぐるぐる思考(反芻思考)」が止まらず、ネガティブな考えに頭が支配される恐怖感があり、それが就職活動の一歩を踏み出す妨げとなっていました。家族との会話はほとんどなく、この状態が数年間続いていました。
初回来院時の心身の評価
初回来院時の心身の評価
・過去への後悔と将来への不安が強い
過去の出来事を振り返って「もっとこうすればよかった」という後悔が強く、将来に対しても常に不安を抱えている状態でした。
・自己否定感が強い
自分に対して非常に厳しく、価値を見いだせず「自分は足りない」「だめだ」という自己否定的な思考が目立ち、心理的な負担をさらに大きくしていました。
・自尊心の低下
自分を大切にする感覚や「達成できる」という自信が乏しく、自尊心が低下していました。これが社会復帰への一歩をためらわせる要因となっていました。
・東洋医学的体質評価:気虚タイプ
東洋医学的には「気虚タイプ」の傾向がみられました。全身のエネルギー(気)が不足しやすく、精神的・身体的に疲れやすい状態で、元気や活力が湧きにくいご様子でした。
鍼灸施術の経過
施術目的
心理学では、社会とのつながり(役割・所属感・他者からの承認)=社会的アイデンティティが、自尊心の土台になりやすいと考えられています。
自尊心とは、自分を大切にし、自分の価値を実感できる感覚です。
この方は、長期のひきこもりにより社会とのつながりが途絶え、社会的アイデンティティが弱まり、自尊心が大きく低下している状態でした。さらに、過去への後悔や将来への不安が重なり、前向きな行動が難しくなっていました。
そこで当院では、鍼灸とカウンセリングを組み合わせながら、
1)「今」に意識を向けて心身の安定を整える
2)最も身近な社会的つながり(家族)から再構築する
3)小さな外部接点(ハローワーク等)を経て、社会的アイデンティティを回復していく
という順序を重視しました。
まずはお母様との日常的な会話やふれあいを増やし、安心感を取り戻すところから開始しました。そのうえで、外部との接点を段階的に増やし、「社会の中での自分」を取り戻していくことを目指しました。
施術内容
① 心身の緊張を和らげる鍼灸施術
自律神経のバランスを整えることを目的に、過度な緊張が抜けやすくなるよう施術を行いました。
② 「今の自分を受け入れる」カウンセリング
過去の後悔や将来不安に引っぱられやすい状態だったため、「今の自分を受け入れる」ことをテーマに整理しました。
③ 捉え方の幅を広げる心理学的ワーク
ネガティブな思考一色になりやすい場面で、見方の選択肢を増やすワークを実施しました。
④ 感情の波に対処するセルフケア指導
深呼吸、リラックス法、マインドフルネス等を用い、不安や落ち込みが強まった際に落ち着きを取り戻す方法を練習しました。
1~7回目(週1回の来院)
睡眠の質が向上し、目覚めが以前よりすっきりする日が増えてきました。深い疲労感やだるさも軽減してきました。
セルフケアの継続により、過去のことを考える時間が減り、後悔やネガティブ思考に支配される頻度が少なくなってきました。
一方で、落ち込むと自己否定に陥りやすい課題は残っていましたが、感情の波への対処は少しずつ整ってきました。
また、「親に感謝しているが、うまく伝えられない」という点についても、言葉にするための自信と安心感を育てていく段階でした。
8~12回(週1回の来院)
以前は激しい落ち込みが続き、1週間ほど寝込むこともありましたが、現在は2日ほどで回復できる場面が増えてきました。
「働こう」という意欲が芽生え、ハローワークへ足を運ぶ行動も見られました。応募にはまだ踏み出せていませんでしたが、社会との接点を作る一歩として大きな進展でした。
また、母親に感謝の言葉を伝えられるようになり、親子関係にも変化が見られました。
家族という最も身近な社会的つながりが回復することで、安心感と自尊心の土台が育ってきたご様子でした。
13~20回(週1回の来院)
強い落ち込みや不安感は減り、前向きな捉え方ができる場面が増えてきました。
就職に有利な資格を取得するという具体的な成果も得られ、自信につながっていきました。
これは「できる自分」という実感が、社会的アイデンティティの回復を後押ししている状態でした。
また、母親との関係もさらに改善し、互いの思いを言葉にできる場面が増えました。
21~25回(週1回の来院)
ハローワークで資料を集める中で、希望する会社が絞れてきました。応募の準備が整い、実際に行動を起こせたことは大きな一歩でした。
落ち込みを引きずる期間も短くなり、立ち直りが早くなってきました。
会社見学や複数企業への応募など、自分に合った職場を探す積極的な行動が見られました。
さらに、両親だけでなく疎遠だった姉たちとも会話ができるようになり、家族・周囲とのつながりが広がっていきました。
現在
就職が決まり、新しい職場で働いています。
家族・社会とのつながりが段階的に回復し、「社会の中での自分」という感覚(社会的アイデンティティ)が育つにつれて、自尊心も支えられていったと思います。
※経過には個人差があります。

